『あつまさ先生の道しるべvol.56』~PTA活動の現状と課題~

保護者と幼稚園・学校が協力して、子どもたちの健やかな成長をサポートするPTA。しかし、少子化や共働き世帯が増えたことなどで、PTA活動に参加する時間の余裕がない保護者も増えてきている。また、コロナ禍の時、集会やイベントの実施が難しく実質的にPTA活動を停止した幼稚園や学校もあった。その経験からPTAの廃止を決めたところも。ほかにも活動のスリム化や効率化、ボランティア化に取り組むところも増えてきている。このようにPTA活動のあり方も時代背景や近年のデジタル化に伴って変わってきている。

PTA活動の実態

PTAの活動内容は、運動会や発表会など幼稚園や学校行事の運営補助や広報誌の作成、子どもの防犯や安全を守るための地域パトロールや登下校の見守り、地域のイベントの運営補助、バザーや廃品回収・清掃活動など多岐にわたっている。地域や幼稚園・学校によって違いはあるが、どの活動も“任意”のはずが、実情としては半ば義務化されているのが現状。また、役員になると平日昼間の会議や頻繁な打ち合わせがあり、働く保護者にとってはかなりの負担になっている。

PTA役員のなり手不足

今、多くの幼稚園・学校で深刻な問題となっているのが、PTA役員のなり手不足。共働き家庭の増加や、個人主義の高まりによってか、「自分の時間や家庭を犠牲にしてまで…」と考える人が増えている。さらに、活動が煩雑で非効率なケースも多く、引き受けると負担が大きすぎることも敬遠される理由のひとつ。特に、挨拶する機会が多いPTA会長役の選任には苦労しているのが実情である。

PTAの必要性の是非は

東洋経済新報社が数年前に実施した「PTAに関する意識調査~PTAの必要性について~」の結果では、「必要に思う」が61.5%と、「不必要に思う」の38.5%を大きく上回っている。
PTAには否定的な意見は多いものの、存在の是非については多くの保護者が必要性を感じているようだ

  • PTAがあることのメリット
    上記の意識調査で特に多かったのが「親同士で交流が持てる」という意見。核家族化が進み、近所付き合いなどが薄れる現在では、保護者同士が交流を持つ機会も少ない。そうした意味では、子育て世代の情報交流や助け合いのネットワークづくりのきっかけとして捉えられているようだ。他の意見として、「家庭では分からない幼稚園や学校での子どもの様子が分かる」が、PTAがあることのメリットとして挙げられている。
  • PTAが不必要に思う理由は
    一方、否定的な意見としては、
    ・無駄な会議や集まりが多い
    ・仕事との両立がしにくい
    ・時間が取れない(平日昼間に集まるのが難しい)
    ・必要のない役職も多い
  • PTAの活動自体は「必要」とした回答者でも挙げた、デメリットは
    ・仕事を休んでまで参加するのが大変
    ・役員の選出が毎回大変
    ・任意であるはずなのに半強制的
    ・前例重視で改革ができない

以上から見えてくるのは、PTAでは今の時代に即した運用が行われていない点と、任意と言いつつも参加が半ば強制されている点。
実際、子どもが在園・在学中に1回はPTAの委員・役員を引き受けなければならないという暗黙のルールが存在している地域は多く、未経験者だけでくじを引いて委員・役員を決定をするといった対応も少なくない。このように強制性が否めない活動では、積極的な対応が望めず有意義な活動にもつながりにくい。近年、参加者を完全に自由意思のボランティアに切り替える組織が登場した背景には、こうした半強制の弊害が根底にあるのでは。
共働きが増えているにもかかわらず、平日に会議が開催されやすいこと。近頃は平日の夜や休日に会議を開催するPTAも増えてきているが、そもそも会議の回数や作業の進め方は前例を踏襲することが多く、効率化が考えられていないためか。これは、委員・役員が1年単位で選出されるため、その場限りの対応に終始しやすいことも一因だろう。

教員側もPTAを負担に感じている

東洋経済新報社が数年前に教員側に実施したPTAの是非に関する意識調査では、「必要に思う」が54.2%、「不必要に思う」が45.8%と、保護者よりも肯定的な意見が少なく、是非はほぼ半々の回答であった。
具体的にそれぞれの理由を自由記述欄で見ていくと、以下のコメントが目立った。

【必要な理由】
・保護者との関係づくりができる
・学校行事で保護者の協力があり、ありがたい
・保護者と協力して子どもの指導ができる
【不必要な理由】
・保護者の負担が大きい
・教員にとっても負担が大きい
・結局は教員主導、教員作業になる
・形骸化している

やはり、否定的な意見としては負担の大きさが目立つ。それも、保護者の負担を懸念する声と同時に、教員側の負担を挙げる声も少なくなかった。勤務時間外にPTA活動にかかわらなければならないことへの負担が大きく、さらには「PTAから幼稚園や学校側へのクレームが激しい」といった回答も散見された。保護者も教員側も余裕がなく、半ば強制で行われるPTAは結果としてトラブルも発生しやすい。

PTAの改革策はあるのか

では、どのような改革が考えられるだろうか?
「PTAに代わる組織、運営に関するアイデアはあるか?」といった設問の、保護者と教員それぞれの主な回答は以下となっている。

【保護者】
 ・ボランティア組織として運営
 ・シルバー人材の活用、第三者への外部委託
 ・報酬化の検討
 ・不公平感のない輪番制の適用
 ・テレビ会議やSNSなどICTを活用した効率化

【教員】
 ・ボランティア組織として運営
 ・第三者への外部委託
 ・コミュニティ・スクール(学校運営協議会制度)の導入

保護者と教員ともに多かった意見には、すでに実現している組織も現れてきた完全ボランティア化による対応。そのほか外部委託といった案もあり、保護者の中にはシルバー人材の活用を提案する人も少なくない。

教員側の意見としては、「コミュニティ・スクール制度」の導入を推す声もある。コミュニティ・スクールとは保護者や地域が学校のさまざまな課題解決に参画し、それぞれの立場で主体的に子どもたちの成長を支える仕組み。一見するとPTAとの違いがわかりにくいが、PTAが保護者と教員で形成されるのに対し、コミュニティ・スクールで組織される学校運営協議会には、地域住民や教育有識者が参画し、学校運営への責任や権限の一端を担う。

このほか、保護者も教員側もICTを活用しペーパーレス化やオンライン会議などでPTA活動の効率化を目指す考えが示されている。

PTAの必要性そのものについては、61.5%もの保護者と、54.2%の教員が肯定している。時代に即した活動の見直しと効率化が実現できれば、PTAの意義はあるとの見解が読み取れる。教育現場はGIGAスクール構想の進展もあり、一気にデジタル化が進んでいる。幼稚園や学校側のインフラが整ったことを考えても、この時期にPTAの改革は以前より着手しやすいはず。コロナ禍を経験し、これまでの前例が踏襲しにくい今は、まさに改革のチャンスといえるのかもしれない。

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